残業しないで帰りなさい!

「ホントに、もう食べよう?」

そう言って微笑むと、課長はオムライスにスプーンを差し込んでパクッと食べて見せた。

「ちょっと冷めちゃったけど、美味しいよ」

嬉しそうに、ふにっと笑う。

あっ……、その笑顔。

私、さっきからずっとその笑顔が見たかったのです。

美味しそうに食べて笑うその笑顔。とても安心する。

安心するのに……私はとても胸が痛いのです。

私、課長に恋をしてしまいました。だから胸が痛いのです。

だからと言って、どうしたらいいのかわからない。

課長は私を好きだと言った。付き合ってくれないかと言った。ずっと待ってると言った。

それに対して、私はどうしたらいいんだろう。

課長につられてハンバーグをポツポツと口に入れたけれど、全然味を感じない。

あなたの存在は強烈です。私の中にある全ての感覚を上回ってしまう。

私はあなたのことが好き。あなたを思うとキュンとする。あなたのそばにいたいと願う。

でも、私にはそれを伝えるツールがないのです。

どうしたらいいのですか?

ん?
ああ、そっか。
返事をすればいいんだ。

私も課長が好きです、お付き合いしたいです、ずっとそばにいたいです。

……そんなこと、言えない。
私なんかにはそんなこと、言えない。

私なんかには言えないから、ツールがないって悩んでいるのです。
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