残業しないで帰りなさい!
つまり、今ここで私がデザートを食べるということは、女の子として扱われていることを受け入れるってことになるのかな。
そんなの、考え過ぎ?
……どうしよう。
でも……、言葉ではとても言えないけど……。
私、課長の前では女の子なのです。
課長に恋をしてしまった女の子なのです。
だから……私。
ここでは一人の女の子になって、……デザート、頼んでもいいですか?
うつむいたまま唇を噛み締めて、コクリと小さくうなずいた。
「ホント?良かった。じゃあ、どーぞ」
メニューがスッと目の前に来た。ちゃんとデザートのページが開いてある。こういうとこ、変に気が利くなあ。
メニューにじっと目を落とす。
パフェとかケーキとか、デザートの写真がいっぱい。
私、今、男の人と一緒に食事に来てデザートのページなんか見てる。
女の子みたいに……。
違う。
女の子みたい、じゃない。私は今、本当に女の子になって、デザートを頼もうとしてる。
私、女の子なんだ。
そう思ったら、急に涙が湧いてきて、ぽろっと落ちた。
課長が息を飲む。
しまった……。急いでメニューを立てて顔を隠す。
「……ごめん。また、泣かしちゃった?」
違うのです。課長が泣かせたわけじゃないのです。
メニューで顔を隠したまま首を振った。
「泣いてるでしょ?」
またブンブンと首を振ったら、メニューの上にガシッと指がかかってペタッとテーブルに置かれてしまった。