残業しないで帰りなさい!
課長、身ぶり手ぶりも交えて、何かを一生懸命喋ってる。
久保田係長はお決まりの腕を組んだポーズで、仕方なく聞いてあげてる感じ。久保田係長の方が小さいのに、見下ろしてるような表情になってる……。
なんだろう。
何を話してるんだろう。
課長は何をあんなに一生懸命訴えかけてるんだろう……。
久保田係長が上から目線で何かを言った。「あなたには関係ないでしょ」とか言ってそう。
「話は終わり」とか言った感じで久保田係長がくるっと向きを変えた。
その瞬間。
ドンッ!!
……えっ?
課長が壁にドンッと片手を思いっきり当てて、久保田係長の行く手を遮った。
……?
あ、あれって……。
あれって?
か、か、壁ドン、ですよね?
思わず手で口を覆う。
鼓動が早鐘のように激しく打って気持ち悪い。
壁ドンなんて……、初めて見た。
いや、普通見る機会ないか。
人の壁ドンなんて。
久保田係長が怯んだ顔で見上げてる。あの人、あんな表情するんだ。
課長の表情はここからは見えないけど。
もしかして……。
もしかして課長……。
久保田係長とよりを戻そうとしてる?
そ、そうだよね……、あんなに綺麗な人だし。
なにしろ、壁ドン、だもんね?
瑞穂みたいに、昔の恋人が懐かしくなったのかもしれない。
そんでもって、会ってみたら今でも久保田係長のことが好きなんだって、気が付いちゃったのかもしれない。
私に好きだなんて言ったの、ちょっとした気の迷いだったのかな?
……そりゃ、そうだよね。
私なんて、そんな、……ありえないもんね。
……。
これ以上、見ていられない……。
壁の裏に隠れたまま、手で口を覆ってひたすら息を殺した。