残業しないで帰りなさい!
あの非常階段に行ってみよう。もしかしたら課長、またサボってるかもしれない。
とりあえず覗いてみて、いなかったらまた次の機会にすればいい。
気配で誰もいないのを確認しつつ、トイレの個室を静かに出た。
鏡の前に立って自分の顔を見る。
目が少し赤いなあ。
泣いたってわかっちゃうかな。
いや……、気が付かないよ。私のことなんて、そこまで見ないよ。
そもそも、今行っても課長が非常階段にいるとは限らないし。
もしいなかったら7階に戻ろう。席を外してからずいぶん時間たっちゃったし。
トイレから出て、周りをキョロキョロ気にしながら非常階段に向かった。
緊張して膝が少し震えてる。
がんばれ、私!
思いきってノブに手をかけ、ガチャッと扉を開けた。
外に出ると、いきなり冷たい風に吹きつけられて身を縮めた。遠くで鳥の鳴く声が聞こえる。
ここは5階だから、上に登ればいいのかな。
手すりから身を乗り出して上を見た。ここからは何も見えないなあ。
それから何気なく下を見た時、すぐ下で手すりに寄りかかって煙草を吸っている人が見えた。
ん?……もしかして、課長?
身を乗り出して見ても頭と手しか見えない。でも、限りなく課長に似ている。
前に、4階だとすぐ見つかる、とか言ってなかったっけ?
それでも、行くだけ行ってみようか。違う人だったらしれっと通り過ぎればいいんだし。
非常階段の鉄製の階段は、どんなに足音を抑えてもカンカンと少し音が鳴ってしまう。それでも、そっとそっと静かに階段を降りた。
私が階段の半ばに差しかかったあたりで、足音に気が付いたのか、煙草を吸っている人が振り返った。
もう、後姿の足元を見てなんとなくわかっていたけど。
やっぱりそこにいたのは課長だった。