残業しないで帰りなさい!

課長は意地悪な瞳をフッと細めて微笑んだ。

「どうしてやきもちを妬くのか、知ってる?」

「え?」

どうしてやきもちを妬くのか?
それは、……好きな人をとられちゃって悲しくて辛くて羨ましいからじゃないの?
少し首を傾げたら、課長の影がより一層迫ってきた。微笑んだまま、課長が囁く。

「教えてくれる?」

「?」

好きな人をとられて悲しいってこと?

目を大きく見開いた。

課長、何を……言っているの?

それって……、課長を久保田係長にとられて悲しかったって言うのと同じだよね?
課長を好きですって言うのと同じだよね?
そ、そんなのムリです!絶対無理!

どうしてそんな意地悪言うの?

あっ!
だからさっきから意地悪な顔をしてるの?
ずっとそんなこと、考えてたの?

っていうかつまり、私の気持ちなんてわかっちゃってる?やきもちを妬いたって時点で、もうわかっちゃってたの?

ドキドキ鼓動が激しくなって、頬が一気に熱くなった。首筋まで熱い。

課長は私の気持ちをわかってて、わざと言わせようとしたんだ……。

激しくまばたきをしてパニックになっていたら、課長はフッと笑いかけた。

「ごめん、ウソだよ。君が信じてくれないからちょっと意地悪したくなっただけ」

おずおず見上げると、課長は優しい瞳で微笑んでいた。

……意地悪なんて、やめてください。
言葉にできず、困った顔でフルフルと首を振った。

「それから言っておくけど、こんなの壁ドンじゃないからね」

「?」

ん?
いえいえ、これは壁ドンです。
今までなんだか普通に会話しちゃってたけど、私は壁際にいて、課長が壁に手をついているんだから、これは間違いなく壁ドンです。

「……怖かったら、ごめんね」

またそれですか?

今度は何をするつもりですか?

私がすぐ泣くから、事前にごめんねを言うことにしたのですか?
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