残業しないで帰りなさい!

ぽーっとして一歩も動けないでいる私を見つめたまま、課長はスタスタと近付いてきて距離を詰めると微笑んだ。

「待たせてごめんね。寒くなかった?」

寒いなんて、とんでもない!むしろ熱いくらいです。
私はフルフルと首を振った。

「じゃあ今度こそ、さっきの続き」

課長は少し屈んで耳元で囁くと、流れるように私の腰に手をまわし、私の体を自分の方へ軽く引き寄せた。

ええっ!
近い、近い!いきなり至近距離!
ネクタイが、首筋が、喉がいきなり目の前!
ドキドキしすぎて窒息しそうです……。

あまりの距離の近さに怯えて、背中をわずかに反らせて、両手を胸の前で握っておろおろすることしかできない。

あの……これ、さっきの続きとは全然違いますよね?

猛烈に密着度が上がっていませんか?
だってだって、こんな、抱き寄せるなんて……。足が時々触れ合ってビクッとする。
課長の瞳も糖度が千倍増しです……。もう直視できない。

なぜ、どうして、離れるたびに密着度と糖度が上がるのでしょうか?
私、もう既に壁にドンもされていません。
ただ、抱き寄せられているだけ……。

そっと腰に添える課長の手が少し滑るだけで、その感触に鼓動が跳ね上がる。

「もう邪魔者もいないし」

にっこり笑う課長。

私はこんなにパニックなのに、その余裕な感じはなんですか!

邪魔者って人事課のみなさんのことですか?

ここだって、いつ誰が来るかわからないのに。
部下にこんなことしてるのを誰かに見られたら、どうするつもりなんですか?
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