残業しないで帰りなさい!

うつむいて目を閉じたらまた涙が頬を伝った。
また課長の指が涙を拭う。

「泣かせることもしたくないけど、……君は泣き虫みたいだからなあ。そればっかりは約束できないね」

額のすぐ上で息を吸う音が聞こえた。

「答えは急がない、なんて言ったけど」

「?」

「……今すぐ、君の答えを聞かせて」

「えっ?」

閉じていた目をパッと開けた。
課長、急にどうしたんですか?

そのままもう一度真剣な瞳で課長は言った。

「君の答えを聞かせてほしいんだ」

い、今すぐ?
そんなっ!
ど、どうしよう……。

「困る?」

うんうん、とうなずいた。
それはもう、とても困っています。なんと答えたら良いのですか?
ただ単にハイって言えばいいの?
わからない……。

「……君は俺がこんなことをしても、怖くないんだね」

課長がわざと少し引き寄せると、すぐ額の上で囁いた。
少し口元が微笑んでる?

「?」

こんなことされても、怖くない。ドキドキはするけど……。
課長のことは怖くないって何度も言ってるのにどうしてそんなこと言うの?
私は首を傾げた。

「……君は俺を怖がんないよね?それは、どうしてなの?」

どうして?
それは……課長が、『特別』だから?
課長のことが、好きだから。

……?

あっ!
もしかして!
また、言わせようとしてる?

無理です!無理無理!
どうしよう……。

瑞穂が言うように普通に「好きだからです」って言えばいいの?
……そんなの勇気がなくて言えないよ。

それに、課長は私の気持ちをわかっているのでは?それならあえて言わせなくてもいいと思うけど……。

おずおずと見上げて言った。

「……わかってる、なら……」

「わかってるけど、それでも君の口から聞きたいんだ」

「!」

やっぱりわかってる!
それなのに私の口から聞きたいなんて……。
< 206 / 337 >

この作品をシェア

pagetop