残業しないで帰りなさい!

うなずいただけなのに、また涙がこぼれて頬を伝った。

言葉にできなくて、ただうなずいただけだったけど、それでも初めて好きな人に好きってことを伝えられた……。
それがなんだか、すごく嬉しかった。

「それだけで泣いちゃうの?」

困ったように微笑んで涙を拭う課長。
泣いてばかりでごめんなさい。目を閉じて心の中でつぶやいた。

「俺も君が大好き」

目を開けて見上げると、課長が優しい瞳で私を見ていた。その瞳に吸い込まれてじっと見つめ合う。まるで時間が止まったみたいで……。

「……お互いに好きなら」

課長の声を聞いて、やっと時間が動き出した気がした。

「もう答えは出てるよね?」

「?」

「俺とお付き合いしてくれますか?」

あ……。そういえばそうでした。
その答えを聞きたいって言われてたんだ。

好きって言うか言わないかで手こずって、ちょっと忘れかけていた。

えっと……、どうしたらいいのかな?
息を飲んでじっと固まる。
また、うなずけばいいのかな?

私が戸惑っていると、課長は目を細めてため息をついた。

「このままじゃ俺、壁ドンまでして迫ったのにフラれたどうしようもないオッサンって社内で指さされちゃうよ」

「……えっ?」

「今頃ね、社内はきっと噂で持ち切りだよ?アイツらなら、しばらく席を外してる女子社員を探し当てんのなんて、ものの数分だと思うし」

「エエッ!?」

なにそれ?どういうこと?

「わざわざここまで見に来る悪趣味なヤツらだよ?調べないわけないじゃない。調べるついでに俺が壁ドンしたことも拡散してるよ」

あはは、なんて笑ってますけど、課長、大丈夫なんですか?
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