残業しないで帰りなさい!
つまり、人事課の人たちは「うちの課長が壁ドンしてたからさー」とか言って、いろんな課に電話をかけまくったってこと?もう課長の相手が私だって調べがついてるの?もしかして、支援係もその話題で持ち切り?
……そんな、どうしよう。
課長、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?
情報拡散なんて全く気にする様子もなく、課長は余裕の表情で首を傾げた。
「それとも君は俺のこと、壁ドン成功させた、やる時はやるイイ男にしてくれんの?」
口元がニヤリと笑う。
「俺が社内でダメなオッサンと指をさされるか、イイ男になれるか、それは君次第だよ?どうする?」
課長は少し屈むと、さあどっち?と言わんばかりに私の額に自分の額を寄せた。
……近いです、ドキドキします。
「俺とお付き合いしてくれますか?」
あなたは本当に大人です……。
私がすぐに答えられないヘタレだからいけないのに、ズルいふりまでして諦めずに何度も聞いてくれているのですね?
お付き合いなんて……、本当はそんなにちゃんと考えていなかった。
ただ、そばにいたいと思っただけで。
そうだ。
私、課長のそばにいたいと思った。課長のそばにいたら、幸せだろうなあって思った。
そうやってそばにいるのを、お付き合いするって言うんじゃないの?
だから、私は課長の問いに、ただうなずけばいいんじゃないのかな?
覚悟を決めて、すぐ目の前の瞳を見つめた。
近すぎてドキドキするけど。つい目をそらしたくなるけど。
でも、じっと見つめた。
「……はい」
うなずくだけにしようと思っていたのに、普通に言葉が出てきたから、自分でも驚いて唖然とする。
課長も少し驚いた顔をして、それからにっこりと笑った。
「良かった」
それから急に真剣な顔をして私を見つめると、そっと頬に触れた。
「……君のこと、大事にします」
ハッとした。
その言葉に胸を鷲掴みにされたような痛みを覚えた。