残業しないで帰りなさい!

「あの……私、課長に望むことはちょっと思いつかないんですけど、課長のことを知りたいって思うんです。課長のいろんなことを教えてもらって、課長がどんな人なのか知りたいです」

本当は、そのサラサラに見える黒髪が本当にサラサラなのか触ってみたいけど、その頬の手触りも気になるところだけど、それはちょっと言えない。

課長は困惑しているようだった。

「……知りたいだけ?少しはないの?こうしてほしい、とか」

ええっ?どうしよう。
やっぱり何か言った方がいいの?
……何も思いつかないよう。

「えーっと、えっと、どうしても何かを望むということであれば、私のことを知ってほしいって思います。それから、えっと、課長のそばにいたいなって思います」

また焦ってペラペラと喋ってしまった。勢い余ってそばにいたいなんて……。
恥ずかしい。

ドキドキして見上げると、課長はじっと考えるように私を見ていた。

やっぱりそんな望みじゃダメでしたか?

課長の表情の意味がわからない。
不安になって、課長の気持ちを読み取ろうとじっと瞳を観察する。

その瞳、なんだろう。
何を思っているの?
全然読み取れない。

食い入るようにじっと見ていたら、課長が突然苦しげな瞳をしたから、ハッとした瞬間、いきなりグラッと視界が揺れた。

「!」

課長の肩に勢いよく顔がボフッと当たる。
腕に、背中に、締め付けるような課長の強い腕の力を感じる。

突然のことに驚いて、息ができない。

え……?

ええっ!?

なにこれ?

もしかして、抱き締められてる!?
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