残業しないで帰りなさい!

えっとえっと……。
今、いったいどうなってるの?

私の顔が課長の肩にあたって、スーツの生地を頬に感じて、胸の前で握ってた手が課長の胸にあたって、私を抱き締める課長の腕を感じて、頭上に課長の息遣いを感じる。

「抱き締めてもいい?」

頭のすぐ上から聞こえる課長の声。

えっと、あの……。
もう、抱き締めてますけど……。

状況を理解したら、急にドキドキし始めた。
激しい鼓動が手に伝わってくる。

だって……。
今、私、課長に抱き締められてる。

私を包み込む腕の力強さを感じる。
スーツの向こう側に課長の体の厚みとぬくもりを感じる。

ドキドキして息もうまくできないけど。

でも……。なんだろう、この不思議な感覚。
窮屈に包まれてる感じが温かくて、心地いい。

ものすごくドキドキするけど、それ以上に安心する。

目を閉じて、ぎこちなく課長の肩に頬をそっと預けてみた。そうしたら不思議と心が穏やかになっていくのを感じた。

そうやってしばらくじっと身を任せていたら、だいぶ鼓動も落ち着いてきた。

スーツの生地ってゴワゴワしてるのかと思ってたけど、意外とサラサラしてるんだなあ、なんて頬に感じるスーツの生地の肌触りを味わってみたりして。

そんなことをしていたら、課長が腕の位置を少しずらして抱き締め直した。

背中を滑る腕の感触にビクッとする。

「ごめん……。いきなりこんなことして」

課長が囁いたから、私は首を振った。

「怖くなかった?でも……、どうしても抱き締めたくなったんだ。ごめん」

苦しげな課長の声。私はもう一度首を振った。いきなりだから驚いたけど。でも、謝らなくてもいいのです。

「手、痛くなかった?」

「……はい」
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