残業しないで帰りなさい!

それは、ちょっと言いにくいなあ。
本人に向かって、王子様とはすごくカッコイイ人のことです!なんて……。

でも、言った方がよさそう……。
なんか、すごく不安げだし。
きっと、大事なこと、なんだよね?

「……笑いませんか?」

「笑うようなことなの?」

「それはわかりませんけど」

「笑わないよ」

私は息を吸った。

「えっと……あの、すごく、カッコイイ人のこと、です」

私が早口で小さく言うと、課長は少し沈黙してから、クスッと笑った。

あ、笑った!

「笑わないって言ったのに……」

「ごめん。いや……、でも、君にそんなこと言ってもらえて光栄だよ」

抱き締める腕に力が入ったから、またドキッとして固まった。

そしてまた少し不安げな声が聞こえてきた。

「もし、俺の見た目が全然違ったら、君は俺を好きになんなかった?」

困った人です。
王子様を気にしすぎです。王子様の重圧による王子様コンプレックスです。

確かに王子様だからすごく目を引かれたけど、そうじゃなくても、私はやっぱりあなたのその雰囲気に惹かれたと思う。

「課長は私のこと、人の話を聞かない子だって言いましたけど、課長の方こそ、人の話を聞かない人なのです」

「え?」

「私、課長のこと王子様だから好き、なんて言ってません。王子様なのに、のんびりしてるから好きなんです。要はのんびりした雰囲気が好きなんです」

課長の肩の向こうに見える空を見ながら私がそう言いきると、課長はフフッと笑った。

「やっと好きって言ってくれたね?」

「あっ……!」

……普通に言ってしまった。
思いのほか普通に言えてしまった。

急に照れて、耳に熱を感じる。

もうっ!課長が王子様コンプレックスで落ち込んだりするから、いけないんです!
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