残業しないで帰りなさい!
金子さんはほっぺを大きく膨らませて上目遣いでググッと睨んだ。
「ヒドイです!なんか、あたしが悪いみたいじゃないですかっ!ちゃんと教えてくれなかったからいけないんです!」
ええっ!私が悪いの?
でも、「私はきちんと教えたでしょ!」なんてハッキリ言えるほど自信が持てない。
口ごもる私の前に、白石さんがかばうように出てきた。
「青山さんはちゃんと教えてましたー!」
「でもわかりにくかったんです」
「あれ以上わかりやすい説明なんて存在しないし!あんたバカなんじゃないの?」
「ヒドーイ!なんでそんなこと言われなきゃいけないんですかー!」
白石さんと金子さんの間で繰り広げられる、売り言葉に買い言葉。
ああ、これはいったい何なんだろう。
思いっ切り頭を抱えたい。
私のせいなんですか?
なんかなんか、本当にごめんなさい。
「もういいです!辞めます!帰ります!」
バンッと机を叩いて金子さんが立ち上がった。
「ええ!?ちょ、ちょっと待って」
バッと見ると、金子さんは口元をぎゅっと結んで私を睨んでいた。
ううっ、そんな顔されたら怯んでしまう。
「いいよ、辞めな辞めな!辞めちまいな!」
白石さんはプイッと顔をそむけて言い捨てた。
「白石さんもそんなこと言わないで」
金子さんは黙って口を結んでいたけれど、突然扉に向かって歩きだし、すれ違いざまに私の脇腹にバッグをベシッとぶつけた。
「イタッ」
ちょっと痛かったけど、そんなことより金子さんの行動が理解できなくて怖じ気づいてしまって、大股でドシドシと足音を立てて出て行く金子さんをただ見送ることしかできなかった。