残業しないで帰りなさい!

ふと課長の手が私の頬に伸びてきた。

「まだ少し赤いね……」

「?」

「泣いちゃったから、目が少し赤くなってる」

あ、そうかもしれない。

「時間差で戻ろうか?俺が先に戻るからさ、君は少しここで休んでから戻った方がいいよ」

「……」

時間差?
なんかなんか……、ずいぶんと手際が良くないですか?もしかしたら課長、前にもこんなこと何人もの女性とあったんですか?

……なんて。
そんなこと思うなんて、自分でも驚くけど。

私、ヤキモチを妬いてる……?
こんな風にヤキモチを妬くなんて、おかしいのかな?

「どうしたの?」

不思議そうに覗き込む課長。

正直に思ったことを聞いたら、バカみたい?
でも、モヤモヤして気持ち悪いよう。

「課長……、前にもこんなことがあったのかなって思ったり、して」

モヤモヤに耐えきれず、言葉がツルッと滑って出てしまった。
でも、言った途端、そんなこと言ってもどうしようもないのにって後悔がわいた。きっと変な子って思ったよね……。

課長は目を大きくして驚いた顔をした後、困ったように微笑んだ。

「非常階段でこんなこと、はないよ。特に壁ドンは生涯で君だけです。……どうしたの?」

どうしたのと聞かれても答えられなくて首を振った。

「ヤキモチでも妬いた?」

思わず目を見開く。
うーん、課長にはわかっちゃってるのかな?

私はため息をついてうなずいた。
だいたい私は何にヤキモチを妬いているんだろう?

「また変なこと思い込んでるんじゃないの?」

そう言われてハッとした。

そうだよね?
課長がたくさんの人と付き合ってたんじゃないか、なんて私が勝手に思ったことなんだ。
別に課長に聞いたわけじゃない。

これってこれって、思い込み?

見上げて、うんうん、とうなずく。

「今度は何?」

課長は笑いながらそう聞いてくれたけど。
言ってもいいのかな?また怒っちゃうかな?
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