残業しないで帰りなさい!

視線をそらして、恐る恐る小声で聞いた。

「えっと……課長は、これまで、王子様を期待するたくさんの女の人と、お付き合いしてきたのかなあ、なんて、思ったり、して……」

課長はふっと笑った。

「まあ、そんなことだろうと思った。君の言うたくさんがどのくらいかはわかんないけど、たくさんってことはありません」

怒らないで笑ってくれた……。
さっきは不誠実だと思われたから怒ったの?

それにしても、具体的に何人とは教えてくれないんだなあ。
そう思ってじっと見ていたら、私の考えなどお見通しだったらしい。

「何人かは教えてあげない」

「えー!?」

「なに?えーって。俺にも見栄ってもんがあんの。だからそれは秘密です。それにね、君には今までとは違うものを感じているし、実際に違うって実感してる。俺には君しか見えません」

真剣さと甘さが混ざった瞳でそんなことを言われて、モヤモヤが消えていくのを感じた。
君は今までとは違う、君しか見えない。そんなことを言われたら、嬉しいに決まっているのです。
私って、簡単なのでしょうか?

もしかしたら私、課長にそう言ってほしかったのかもしれない。それをわかって、課長は私の望み通りの答えをくれたの?

うつむく私を見つめて課長が言った。

「君は思い込みが激しいっていうか、変なこと考えるから、疑問に思ったらその時その場で俺に聞いてほしいな」

変なこと考えるなんて言われてしまった……。
でも……、まあ、確かに、その通りかも。

「わかった?」

大きくうなずく。

「……君はいろんなことを考えてんのに、なかなか口に出して言ってくんないね?俺はもっと君が思ってることを知りたいんだけど。君が俺を知りたいと思ってくれてるように、俺も君のことが知りたいんだよ?だから、思ってることは話してほしいな」

目を大きく開いてじっと課長を見つめた。

課長も私のことを知りたいって思ってくれてるの?それは、すごくすごく嬉しい。

それなら、緊張しちゃうけど、でも、がんばって話すようにしようかな。
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