残業しないで帰りなさい!

セロリ嫌いなこと、覚えててくれたんだ。嬉しいなあ。
私も課長がトマト嫌いなの、覚えてますよ?

きっと気を遣ってくれたんだと思うけど、嫌いなものだからって避けなくても、前の食事の時みたいに、お互いにお互いの嫌いなものを食べあったりしてもいいんだけどな。あれはあれですごく楽しかった。

「じゃあ、行こうか?少し歩くけど、いい?」

私がうなずくと、課長は少し照れくさそうに手を差し出した。

「手、繋いでもいい?」

ハッとして目を見開く。

瑞穂先生、さすがです!
おかげで私、変に慌てずに済みました。

「……はい」

差し出された課長の大きな手のひらに、恐る恐るそーっと私の手を近付けたら、パシッと握られてビクッとした。
握られた手から痺れが這い上がってきて、胸がキュウッと痛くなる。不思議な感覚。

私、今課長と手を繋いでる……。
その少し手を引かれる感じに頬が熱くなった。

「怖くない?平気?」

まだ課長は私が怖くないか心配してるんだ。課長は平気なんだけどな。

「えっと、怖くないけど、ドキドキします」

「俺もドキドキする」

「えっ?」

課長の意外な台詞に、驚いて見上げた。

「君と恋人だなあって思えて、ドキドキする」

甘い瞳でそんなことを言われたら、私、もっとドキドキしてしまいます。
もうきっと、耳まで赤いはず。

課長は微笑んで私の手を引いた。

「行こっ」

歩き出した課長に手を引かれて、斜め後ろを追うように歩き始めた。
< 236 / 337 >

この作品をシェア

pagetop