残業しないで帰りなさい!
そういえば、非常階段でも手を引かれたんだっけ。あの時はとっさのことで、あんまり考えてなかった。
あの時とは手を繋いでいる感じが違う。
私の手を包む課長の手も、課長の手を握る私の手も、繋ぎたくて繋いでいるのを感じる。
なんていうか……ドキドキします。
改めてこうして手を繋いで、見慣れない私服の課長を見上げると、不思議な気持ちになる。
この人、私の恋人なんだ……。
ただの上司だったら、こんな風に私服を見ることなんてないもんね?恋人じゃないと手を繋ぐことなんてないもんね?
恋人?
……課長が?
会社では高野係長より大塚係長より立場が上の課長が、私の恋人なの?
それに、見上げた横顔はやっぱりカッコイイ王子様で。
またドキドキしてうつむいた。
見上げたりうつむいたり、私、変?
「香奈ちゃん」
「……エッ!?」
上から聞こえてきた課長の声に、驚いて顔を上げた。今、……名前?
「ずっと考えてたんだけどさ、……香奈ちゃんって呼んでも、いいかな?」
課長の声はいつも耳に心地いい。その課長の声が私を名前で呼ぶなんて……。
課長が発した「香奈ちゃん」という声は、やっぱり耳に心地よく響いて、すごく嬉しくて胸がキュンとした。
「……はい」
「良かった。やっぱり香奈ちゃんっていうのが一番しっくりくるなあ。ね、香奈ちゃんっ」
「は、はい」
なんだか課長、楽しそうです。
「香奈ちゃん」
「はい?」
「呼んでみただけ」
「……」
手をぎゅっと握ってイタズラっ子みたいに笑う課長。はしゃいでいるんですか?本当に楽しそうです……。
そんな課長を見ていると私まで楽しくなる。