残業しないで帰りなさい!
課長は楽しそうに続けた。
「それに、その店の奥に個室っぽくなってる静かな場所があってさ、その席を取っておいてもらってんだ」
「はあ……」
課長、そのお店によく行くのかな?
知り合いって、どういう知り合いなんだろう。お友達とか?
もしかして、こんな風に昔も彼女を連れて行ったりしたのかな?
だとしたら、そのお知り合いは今までの課長の彼女遍歴をよく知っていたりするの?
私、比べられちゃったりするのかな……。
……いやいや、ダメダメ!
それは考えても仕方のないこと!
課長だって私のこと、今までとは違うって言ってくれたもん。
気にしない気にしない。
気にしても仕方がないのに、すぐ変なこと考えてしまう自分にちょっと落ち込む。
「その席、窓際でね、なんかすごく落ち着くんだ。そういう場所の方がゆっくり話せそうじゃない?」
やっぱり窓際が好きなんですね?
そんな席をわざわざ予約してくれるなんて。
課長は私とゆっくり話したいって思ってくれてるんだ。
私と同じようにお互いのことをたくさん知りたいって思ってくれているのかな……。
そう思ったら、くだらない過去へのモヤモヤは煙のようにどこかへ消えて行った。
私って、簡単だなあ……。
嬉しくて、握る手にほんの少しだけ力を入れたら、課長がギュッと握り返して私を見た。
キュンと感じた胸の痛みを隠して、課長を見上げてにこっと笑うと、課長もニコッと笑った。
あ、この感じ。
このふわっと包み込むような柔らかい空気が大好き。