残業しないで帰りなさい!
地下街から外に出て路地裏に入ると、さっきまでの人混みが嘘のように静かになった。
右側に課長の手のひらと大きな影を感じながら、手を繋いでゆっくりと路地裏を歩く。
私は横浜育ちで、ずっと横浜に住んでいるけれど、課長はもともと千葉の出身で、就職してからはずっと東京に住んでいたらしい。
横浜支社の配属になって初めて横浜に住んだから、横浜のことは詳しくないんだよね、なんて話を聞いていたら、あっという間に目的のお店についてしまった。
あっという間に感じたけれど、10分以上は歩いていたかもしれない。この辺には来たことないなあ。
飲食店のまばらなエリアで、そのお店は少し目立っていた。
壁はレンガ造りで、表にかかった看板も大きなランプも重厚な木の扉も、まるで外国に来たみたいな雰囲気ですごく素敵。
「素敵なお店ですね」
「ホント?良かった」
にっこり笑って扉を開けると、課長は「どうぞ」と言って私を先に入れてくれた。
店内に一歩入った途端、ものすごい活気に圧倒された。外の静けさとは打って変わって、ガヤガヤとすごく賑やか。
人気店なのかな?それともちょうどお昼時だから?びっくりするほど混んでる。
だから予約したのかな?
パタパタと急いで案内に来た女性は、課長を見ると「あらっ」と言って微笑み、それから私を見てもう一度微笑むと「こちらへどうぞ」と歩き始めた。
え?
課長、顔パスなの?
そんなに何度も来てる常連さんなの?
女性に案内された奥の席は、課長の言っていた通り、さっきの賑やかな空間からは隔たれていてとても静かだった。ちょうど壁があるから、本当に個室みたい。