残業しないで帰りなさい!
女性が忙しそうに去って行く後ろ姿を見送ってから、課長に聞いた。
「課長のお知り合いって、どういうお知り合いなんですか?」
「んー?それは会ってからのお楽しみ」
「?」
なんで秘密なの?いつ頃からのお友達かくらい教えてくれてもいいのに。
「手はだいぶ良くなった?」
課長の視線を左手に感じて、左手を軽くヒラヒラと動かして見せた。
「はい。来週病院で診てもらって、問題がなければその次には抜糸してもらえると思います」
「そっか。なら、良かった」
「……あの日、課長がすぐに病院に行かせてくれたおかげです。ありがとうございました」
怒られた時には、病院に行く必要はなかった、なんて強がりを言ってしまったから、あの時言えなかった気持ちを今さらながら正直に伝えてみたんだけど……。
課長はもうそんなことは気にしていない様子で、私をじっと見つめた。
「それはいいんだけどさ。香奈ちゃんはいつまで俺のことを課長って呼ぶのかな?」
「えっ?」
「二人いる時は、できれば課長はやめてほしいなあ」
うーん。やっぱりそうですよね?そう言われるような気はしてたんだけど。
「……なんて呼ぶのがいいですか?」
「なんて呼びたいの?」
「……」
すごく年上の人だから、名字?それとも名前にさん付けで『翔太さん』とかなのかな?そんなことを考えるだけでも、照れて頬に熱を感じてしまう。
「名字で呼ぶのはダメだよ」
なんて呼びたいの?なんて聞いた割に、名前で呼ぶことに限定してくるんですね?
「もしかして、俺の下の名前、知らなかったりする?」
「知ってます!」
実を言うと、私にはちょっと憧れている呼び方がある。言ってもいいのかな?