残業しないで帰りなさい!
少しもじもじしながら切り出してみた。
「……実は、ちょっと憧れている呼び方がありまして……」
「憧れてる?」
「はい。私、両親の呼び方にちょっと憧れてるんです」
「香奈ちゃんの本当のお母さんがお父さんを呼んでた呼び方?」
「あ、えっと違ってですね、義理のお母さんが義理のお父さんを呼んでいる呼び方です」
「……えっ?どういうこと?」
課長は首を傾げて身を乗り出した。
やっぱり、状況が掴みづらいですよね?複雑で申し訳ないです……。
膝の上で手を握って、どう説明すべきか頭の中で順序を整理した。
「えっとですね、お父さんが再婚して義理のお母さんになった人が、お父さんが死んだ後に再婚した旦那様を呼んでいる呼び方に憧れているんです。二人はすごく仲がいいから素敵だなあっていつも思ってて」
「……」
「?」
「お父さん、亡くなったんだ?」
「はい。小学校6年生の時に」
「お母さんは?亡くなったの?別れただけ?」
「えっと、お母さんは私が幼稚園の時に病気で……」
「そうなんだ……」
課長はしばし黙ってしまった。
ただ名前の呼び方の話をしていただけなのに、話が変な方向に行ってしまった。こんな話、するべきじゃなかったかな。名前の呼び方だけを言えば良かった。