残業しないで帰りなさい!

課長は苦しげな表情をした。

「じゃあ、香奈ちゃんはあのヒドイ義理のお母さんとずっと一緒に暮らしてたんだ?」

あれ?しまった!
課長はまだ優香さんのこと酷い人だと思ってるんだ。

「あの、えっと、……義理のお母さんは酷い人じゃないんです」

「だって、君を傷つけたじゃない」

課長の瞳は少し怒っていた。

「あ、あれは……。えっと、確かにあの言葉にはショックを受けましたけど、そんなことは本当にあの時だけで、優香さんは本当にいい人なんです」

「よくわかんないなあ」

そうですよねえ……、うまく説明できなくて申し訳ない。

「……伝えるのが下手で、すみません」

「いや、君が辛い思いをしてきたんじゃないのかなって思ったんだ」

「そんなこと、ありません。優香さんには本当に感謝しています」

優香さんに感謝しているのは、本当。

あの事件の半年後、お父さんが胃癌だとわかった。その時にはもう既に他の部分にも転移していて、病状はかなり進んでいたらしい。

病気はあっという間に進行して、お父さんは癌が見つかってから4ヶ月で死んでしまった。

学校帰りにお見舞いに行く度、みるみる弱っていくお父さんが不思議だった。

「香奈」って呼ぶ声がどんどん小さくなって、手の力が弱くなって。背が高くて力持ちで口うるさいはずのお父さんが、あっという間に痩せて出来ることが少なくなっていくのが、本当に不思議だった。
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