残業しないで帰りなさい!

恐る恐る薄く目を開けて課長を見ると、課長ははしゃいだように笑った。

「うんっ、いいね!それ、すごくいいと思う。もう一回言って!」

「……」

そう言われると言いにくいなあ。

「さん、ハイッ」

あっ出た!それ、ますます言いにくいです。
でも私、がんばります。

「えっと、……翔太くん」

「なあに、香奈ちゃん」

言ってみたら、やり取りにキュンとしつつも、まあまあ普通に言えた。

目が合ったらちょっと照れて、二人でふふっと笑った。こうして二人で笑うと、ふんわり優しい空気に包まれる。

これからは課長じゃなくて、翔太くんって呼ぶんだ……。課長を翔太くんって呼ぶなんて、我ながらずいぶんと思いきった提案をしたなあ。

でも、ずっと憧れていたから嬉しい。

すぐには慣れないかもしれないけれど、でも、課長のことを翔太くんって呼ぶと、なんか不思議と距離が縮まったような気がする。

「そんな風に呼ばれると、垣根がなくなって香奈ちゃんにぐっと近付けた気がする」

そう言われて、ハッと見つめた。

「私も今、全く同じことを考えてました」

「ホント?嬉しいなあ」

私も嬉しいです。
年の差も会社での立場の違いも感じなくて、普通に横に並んで話せる感じが本当に嬉しいのです。
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