残業しないで帰りなさい!
遊馬さんは腕を組んだ。その立ち姿も翔太くんとそっくり。
「本気で大切な人が出来たら紹介しようってだいぶ前に約束したんだ。あれから俺は結婚して子どもだっているのに、兄貴は一度も誰にも会わせてくれなかったから、心配してたんだよ?だから、今日は兄貴が可愛い女の子を連れてきて本当に嬉しい」
「羨ましい?」
「どんな卑怯な手を使ったのかねえ」
「俺は卑怯なことなんてしません。常に直球勝負です」
「どうだか」
翔太くんが私のこと、今までとは違うって言ってくれたの、本当だったんだ。
そう思って、いいよね?
だって、初めて弟さんに会わせてもらえたのが私だなんて。
そんなの夢のようでぼんやりしちゃって、二人の話し声を聞きながらうつむくことしかできない。
「それにしても、なんかぎこちないよね?もしかして、まだ付き合って間もなかったりして」
「うん、初めてのデートだもん」
遊馬さんは目を丸くした。
「マジで!?初めてのデートでいきなりここに連れて来たの?……へえ?兄貴、俺と違って直感で決めるんだね。しばらく付き合ってから考える、とかじゃないんだ?」
「まあね」
「ふーん。それに……卑怯でズルいな」
「それは言わないでほしいなあ」
「?」
どうして卑怯でズルいんだろう?
遊馬さんは目を細めた。
「まさか、会社で堂々と交際宣言なんてしてないよね?」
「もちろんしてますけど、何か?」
しれっと答えた翔太くんとは対照的に、遊馬さんは驚愕の表情をした。
「マジで?こえー。正直引くわ!必死か?香奈ちゃん、悪いけど本当にもう逃げられないよ?この人本当に本気だわ」
遊馬さん、どうして引くの?私、逃げるつもりなんて全然ないし。それに、本当に本気だなんて……。嬉しすぎてもう頭が全然働きません。