残業しないで帰りなさい!
ぽーっとしている私に翔太くんが微笑んだ。
「香奈ちゃん、お酒飲める?」
コクりとうなずく。私はけっこうお酒は強い。
さっきから遊馬さんが持ってきた瓶がワインみたいだったから気になっていたけど、やっぱりお酒なんだ。
昼間からお酒なんて飲んで、いいのかな?
窓が北向きのせいかこの場所は少し薄暗くて、ロウソクの灯りも昼を感じさせないけど……。
「そんなことも知らないの?君たち、まだまだだね」
「うるさいなあ。いいの!こうやって少しずつ知っていけば」
「35とは思えねー純朴なセリフ!こえーよ」
肩をすくめてから遊馬さんは瓶を手に取ると、丁寧に説明してくれた。
「これはね、ヴィンサントっていうデザートワイン。で、これがカントゥッチっていうアーモンドの風味の堅いお菓子。こっちの小さいグラスに入ってるワインにお菓子を浸して食べてもいいけど、ワインだけを少しずつ飲んでもいいからね」
「はい」
私はお酒は強いけど、ワインって実は飲んだことがない。
遊馬さんは大きなグラスに琥珀色のワインを少しだけ注いでくれた。
ロウソクの灯りに揺れて綺麗な色。
「綺麗な色でしょ?香りもいいんだよ」
そっとグラスに鼻を近づけるとフルーツみたいなバニラみたいな香りがフワッとした。
いい香りに私がまばたきをしてうなずくと、遊馬さんはにっこり笑った。
「このワインは俺からのプレゼント。その代わりと言っては何だけど、不肖な兄貴をよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
遊馬さんは瓶をテーブルに置くと、翔太くんを見た。
「兄貴、飲ませすぎるなよ」
「そんなことしません」
「じゃあ、ごゆっくり」
にっこり笑ってから遊馬さんは翔太くんの肩をパシッと叩いて去って行った。