残業しないで帰りなさい!

「それも、嬉しいです」

「後悔するかもよ?」

「どんな課……」

「か?」

翔太くんは私の言い間違いに必ず嬉しそうにツッコミを入れる。楽しんでますね?

「……どんな翔太くんでも、そばにいられたら私は嬉しいです。後悔なんてしません」

私は間違いなくほろ酔いだ。こんなことを平気で言うなんて。でも、そばにいたいのは本当だもん。

翔太くんは優しく微笑んだ。

「嬉しいよ、そんな風に言ってもらえて。ずっとそう思ってもらえるように、香奈ちゃんのこと、ずっと大事にする」

こんな猛烈に糖度の高い瞳をじっと見ていられるのは、私がほろ酔いだからです。普段ならノックアウトされてます。

「香奈ちゃんと話してみたらたくさんの共通点があったけど、でもそれだけじゃなくてね、香奈ちゃんに義理のお母さんがいるって聞いた時、そんなことまで一緒なんだって驚いたんだ」

「え?」

翔太くんもお父さんが再婚して義理のお母さんと暮らしてたの?

「そんなの、今どきはよくある話なのかもしんないけど、俺も親父が再婚して義理の母親と暮らしてきたからさ。まあ、今日話を聞いてみたら香奈ちゃんの方が複雑で、よっぽど大人だけど」

「そんな大人だなんて……」

翔太くんの方がよっぽど大人なのです。私などお子ちゃまです。

「俺の場合は親父がろくでなしでさ、母親がちょいちょい変わったんだ。それを見てきたせいか自分の中に刹那的な部分があってね、人は出会って別れてを繰り返して、ただ目の前を流れていくだけなんだって思ってた。でも、君だけは流れていくものになんてしたくない。目の前にいる君がいなくなってしまうなんて考えられない。だから、絶対に大切にしようって思ったんだ」

真剣な言葉が胸に響いて、涙がにじんだ。
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