残業しないで帰りなさい!

嬉しかったり悲しかったり、私、感情の起伏が激しくなってる気がする。
お酒のせいかな?

急に翔太くんはひざまずくように腰を落とすと私の両手を握った。

「君のことが大好きだから、ずっと俺のそばにいて」

突然そんなことを言われて、思わず目を見開いた。

「って言えば良かったね」

翔太くんがにっこり笑ったからうなずいたら、また涙が落ちてしまった。

「……ごめん、泣かせてばかりで」

また涙を拭いてもらってうつむいた。

「いえ、私がいけないんです、すみません」

「あー……戻っちゃった」

「えっ?」

戻っちゃった?えっと、何のこと?

「敬語に戻っちゃった」

「あっ……」

私さっき、普通に喋っちゃったかも。

「あの、すみません……私」

「敬語じゃない方がいいんだけどなあ」

困ったように微笑む翔太くん。

「で、でも……」

いいのかな、ずっと年上の人なのに。ちょっと抵抗あるなあ。

「年上だから遠慮しちゃう?じゃあ、優香さんは和彦さんに敬語なの?」

あの二人は敬語じゃない。でもそれは、優香さんが気にしない性格だからなんだけど。

「あの人たちは敬語じゃありませんけど」

「なら、俺たちもそれでいいじゃない」

困ったなあ。……でも、確かに翔太くんなんて呼んでおいて敬語っていうのもバランス悪いのかな?

「……じゃあ、少しずつ」

「うん、いいよ。少しずつね」

翔太くんは嬉しそうに両手を握ってにっこり笑った。
そんなことを話していたら、すっかり涙もひいていた。もしかして、これも翔太くんの作戦だった?
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