残業しないで帰りなさい!

「あのさあ、アンタら、何やってんの?」

ハッと見ると、遊馬さんが呆れた顔で立っていた。

「まさか、まだ口説いてる途中なの?まだ付き合ってもいないなんて言うなよ?」

「そんなことはありません。別に付き合ってても口説いたっていいでしょ?」

「はあ……何やってんだか。あのね、ランチの時間、もうとっくに終わってんだよね。もうアンタらしか残ってないんだ」

「ふーん」

「邪魔」

「ハッキリ言うなあ」

「今日は帰って。また来て」

翔太くんは膝を叩いて立ち上がった。

「……仕方ないね」

「香奈ちゃん、ごめんね。また来てよ。待ってるからさ」

遊馬さんはそう言って微笑むと、急に真面目な顔をして翔太くんに手のひらを出した。

「お会計!」

「今日くらいご馳走してよ」

「ダメ!うちも商売だから」

「えー?ケチだなあ」

「嫁に言って」

「……それは無理だねえ」

「じゃあ、行ってこい!」

「はぁい……」

待っててね、と言って翔太くんは姿を消した。

「香奈ちゃん」

「はい」

遊馬さんに呼ばれて振り向くと、遊馬さんは翔太くんに似た真剣な瞳をした。

「兄貴はね、香奈ちゃんに本気なんだ」

「えっ?」

「卑怯な兄貴の肩を持ってプレッシャーかけるみたいで申し訳ないけどさ、あの人、香奈ちゃんに一生分の恋を捧げる気なんだと思う」

「……」

そんな……。この人、とんでもないこと言い出した。一生分の恋だなんて。
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