残業しないで帰りなさい!

「会社で宣言してるなんて、香奈ちゃんが逃げられないようにしている卑怯者みたいに思えるかもしれないけど、本当はね、自分の退路を断ったんだと思う。兄貴は香奈ちゃんを失ったらもう恋はしないよ」

そもそも私、翔太くんが私に逃げられないようにしているなんて、考えたこともなかった。
でも、そういえば瑞穂もそんなこと言ってたような気がする。

確かに、会社ではあっという間に噂が広がって「王子の彼女って誰?」って見に来る人がいたりして、すっかり翔太くんの彼女として見られるようになってしまった。

こんなに知れ渡ってしまったら、別れづらくなる?だから、公にするのは逃げられないようにする卑怯な手だっていうこと?

でも、もともと翔太くんは、最初から公にするつもりだったわけじゃなくて、たまたま目撃されちゃったから、堂々としようと思ったんじゃないのかな。

それとも翔太くん、本当は卑怯なの?
……でも。
別に卑怯でも構わない。

卑怯な手を使ってでも私を失いたくないって思ってもらえるなんて、私は嬉しいもの。

遊馬さん、翔太くんは私を失ったらもう恋はしないって言ったけど、それは翔太くんにとってこれが最後の恋って意味なのかな?

私もそうでありたい。
私は翔太くん以外との恋なんて、知らなくていい。

「どうして恋はダメになるんでしょうか?」

「え?」

遊馬さんは驚いた顔をした。遊馬さんに聞くべきじゃなかったかな。でも、なぜか遊馬さんに聞いてみたくなって聞いてしまった。

「終わってしまう恋はどうしてダメになってしまうのかなあと思って」

遊馬さんは不思議そうな顔をして微笑んだ。

「それは人それぞれだと思うけど。そうだねえ、例えば他の人を好きになったり、物理的に距離が離れたり、家の事情があったり、やりたいことがあったり、そういう問題を二人で乗り越えられないからダメになるんじゃない?」

「……そうですか」

じゃあ、何か問題が起こっても乗り越えていけばいい?
そうしたら、この恋は終わらない?
そういうこと?
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