残業しないで帰りなさい!
すぐそんなことを考えちゃって、私、ダメだなあ。
翔太くんは今日、弟さんに初めて彼女として私を紹介してくれた。
それはとても大事なことなんだと思う。
だから、この人の過去を考えるより、これからのことを考えよう。
「ここから中華街も近いよね?」
「え?うん、そうだね。歩いて行けると思う」
翔太くんはにっこり笑った。
「だいぶ自然になってきたね?」
「?」
「話し方」
「……うん」
確かに自然になってきたと思う。自分でもちょっと嬉しくて、はにかんで微笑んだ。
中華街は行ってみたいけど、ピザの量が多かったからまだお腹すかないねえ、なんて話をしながら手を繋いで歩いた。
そして、海の方を向いたベンチが空いていたから、翔太くんは座ろうと言い出した。座ってもやっぱり手を繋いだまま。引き寄せられて座るのはやっぱりドキドキする。
目の前に広がる海。こんな風に夜の海を見るなんて、初めて。
海の向こうには街や工場の光が散りばめられたように輝いているけれど、すぐ近くで波打つ夜の海は黒く見えてちょっと怖い。
そんなことを思っていたら気が付いた。
翔太くん、また注目を集めていませんか?目の前の歩道を歩く女の子とか振り向いてるし。
本当にびっくりするほど女の子の視線を集めるんだなあ……。
やっぱりカッコイイもんね?
それなのに、こんなに注目されてる本人は、女の子の視線なんて全然気にする様子もない。
どうしてかな?すごく不思議。
だから、思いきって聞いてみた。
「翔太くんは気にならないの?」
「何が?」
「えっと、なんて言うのか。……女の子たちから見られること」
翔太くんは空を見上げると息を吸って、また姿勢を戻した。
変なこと、聞いちゃったかな……?
「うーん、そうね。気にしない。俺を見てるわけじゃないから」
その答えの意味がわからなくて首を傾げた。