残業しないで帰りなさい!

「じゃあ、一度深呼吸してみたらどうかな?」

ああ、深呼吸!
そうですね。

今の私には、もってこいの落ち着き方です!

手を膝に置いて、目を閉じてスーッと息を吸った。

ふわっと煙草の匂い。

あれっと思う間もなく唇に柔らかい感触が重なって、少し止まって、それから離れていった。

一瞬で消えてしまった不思議な感触……。

「……」

目を開けて、吸った息を吐けずにそのまま停止する。

えっと?
今……。

今、キス、した?
キス、したよね?

じわじわと頬が熱くなって、その熱が耳に伝わる。

「大丈夫だったでしょ?」

翔太くんの声。
いったい何が大丈夫だったのでしょうか?

まばたきをしながら止めていた息を少しずつ吐いて翔太くんを見ると、少し心配そうに微笑んでいた。

「それとも怖かった?」

怖かった?
私は小さく首を振った。

怖くはなかった。
怖いとかよくわからない。今はちょっと頭が働きません……。

だって、あの感触。
柔らかくて、不思議な感触。
キスの感触……。

そうです。
あなたは私にキスをしたのです。
それも、不意打ちでキスをしたのです!
怖いとかそんなことより、こっちの方が重要です!

「……倒れなくて良かった」

ほっとため息をついた翔太くんの言葉を聞いて、ハッとした。

もしかして翔太くん……、ずっとそのことを気にしてたの?

どうして何度も「怖くない?」って聞くのかと思ってたけど、私が怖がって倒れるんじゃないかって心配してたの?
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