残業しないで帰りなさい!
私、ほとんど忘れてた。
翔太くんといると、ただただ安心感しかないんだもん。
でも、そうだった。
私は男の人が怖くて苦手。
女の子って見られることも嫌。
それなのに……。
翔太くんには全く怖さを感じない。翔太くんの前では、女の子でいられることが嬉しくてたまらない。
でも、男の人への恐怖心が薄れたわけじゃなくて、きっと怖くないのは翔太くんだけなんだと思う。
さっき、遊馬さんにも少し怖さを感じたもの。やっぱり他の男の人は、今でも全然ダメなんだと思う。
翔太くんは好きな人だから怖くない。
でも、考えてみたら、好きな人のことは怖くなくて良かった。好きな人のことまでもが怖かったら、きっとすごく悲しい。
その好きな人が私を好きでいてくれて、本当に良かった。好きなのに、唯一怖くないのに想いが通じなかったら、きっと悲しい。
私は今、すごくすごく幸せなんだ。好きな人と一緒にいられて、すごく幸せなんだ。
その好きな人が私にキスをした。私の好きな人が私にキスをしたいと思うなんて。
嬉しくて涙がにじんだ。
「……翔太くんだけは、怖くない」
「俺は、特別?」
「うん、……好きな人だから」
私がうつむくと、翔太くんは頬に触れた手で私の顔を上に向けた。
見つめる瞳の糖度の高さに、視線を絡め取られる。
「もう1回」
「……っ!」
翔太くんは有無を言わせずに首を傾けたから、思わず目を閉じてしまった。
すぐに重なる唇。
キュンと胸が痺れる。
すごく柔らかくて、ほんのり温かい感触。
煙草の匂い……。
こんな感触、他にはない。
わずかな唇の動き。
余すところなく感じたい。
もっとこの感触を感じていたい。
そんな私の心を知ってか知らずか、さっきよりも長く唇を押し付けるように密着させて、それからゆっくりと離れていった。