残業しないで帰りなさい!

パッと電気がついたら、そこはあんまり物がないガランとした部屋だった。

どこにいたらいいのかわからなくて、部屋の入り口で立ち尽くしたまま動けない。

そのままぎこちなく部屋を見回す。

目に入ってきたのは、二人掛けのダイニングテーブル、テレビ、ソファー、青いカーテン。
わずかな煙草の匂い。

……案外綺麗にしてるなあ。

立ち尽くす私を見て翔太くんは苦笑いをした。

「大丈夫じゃないねえ、香奈ちゃん」

「そうですね……」

あっ、そうですね、なんて本当のことを答えてしまった。
本当に大丈夫じゃないな、私。

「あはは。じゃあ、どうやって安心してもらおうかなあ?」

正直に答えてしまった私を怒ることもなく、笑ってのんびりした言い方をしてくれる翔太くんの雰囲気。それだけで、私はかなり安心する。

「とりあえず、そんな所に立ってないで座ろう?」

肩を押されて椅子に座らせられた。二人掛けの小さなダイニングテーブル。

私が椅子に座ってキョロキョロしていたら、翔太くんはお湯を沸かして温かい紅茶を淹れてくれた。自分はコーヒーを飲んでる。私が紅茶を好きなの、覚えててくれたんだ。

温かい紅茶を飲んだら、かなり気持ちが落ち着いてきた。

「帰ってきたらなんかお腹空いちゃったなあ。買ってきた肉まん食べよっか?」

言われてみたらちょっとお腹空いてきたかも。

「うん」

翔太くんは席を立つと、買ってきた肉まんを電子レンジで温めてくれた。目の前にホカホカと湯気が上がる肉まんが置かれる。
……美味しそう。

「食べよ?」

「うん、ありがとう」

向かい合って座って、「いただきまーす」と二人で言って熱々の肉まんにパクッとかぶりついた。まだ熱くて、ハフハフしてしまう。

「うまいね」

「うん、美味しい」

二人でふふっと笑って、また一口肉まんを食べる。この空気、安心するなあ。
緊張もだいぶ解けてきた。
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