残業しないで帰りなさい!

翔太くんは私の髪を梳くように撫でた。

「憧れ、かな。香奈ちゃんは素直でまっすぐな人だからね。リセットして一からやり直したら君に近付けるような気がしたんだ。結局今までの自分を消すことなんてできないけどね」

憧れだなんて……。素直でまっすぐなんて言ってもらえるのは嬉しいけど、それはつまり私がお子ちゃまってことなのかな?

「……私が子どもっぽいから、合わせてくれてるの?」

「ん?そういう意味じゃないよ?香奈ちゃんのこと、子どもっぽいと思ったことはない」

そんなこと言いながら、いい子いい子と私の頭を撫で撫でする翔太くん。わざと?

「香奈ちゃんはね、本当に素直な人だと思う。一緒にいると俺も素直になれる気がするんだ。素直な心なんて、俺にはないと思ってたんだけど、人は変わるもんだね」

素直な心がない?人は変わるもの?
昔の翔太くんは私が知っている翔太くんとは違ったのかな……。

翔太くんはフッと笑った。

「素直になったところで君との年齢差が埋まるわけでもないし、俺の過去が消えるわけでもないし、本当はリセットなんてできなくて、そんなのは幻想にすぎないんだけど、それでも一からやり直したら、少しは純真な君に近付けるような気がするんだ」

私なんかより翔太くんの方がよっぽど純真だと思うけど。子どもみたいにはしゃいだりして。

「翔太くんは純真で素直な人だと思うよ?」

「そう?うん……、今は素直になれてるかもね。香奈ちゃんと素直な気持ちを交わせることが心から楽しくて、嬉しいんだ。なんか、こう、自由になった気がしてね。それに、自分を隠して付き合っても意味がないと思う。それじゃきっとダメになんだ。素直な自分を隠さずにいたい。君に対してはまっすぐでありたいんだ」

そう言ってから、翔太くんが私の頭に顔を埋めてクスッと笑ったからくすぐったくてビクッとした。
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