残業しないで帰りなさい!

嫉まれたりして爪を見せなくなった、なんて……。でも、ちょっとそんな気はしていた。

翔太くんはいつも能力を見せない。「いざって時に役に立てばいいの」なんて言って、本当にうたたねしているように見せている。実際はこっそりいろいろやってるみたいだけど、あえてそれは見せない。

そのバランス感覚を私は大人だなあと思って見ていたけれど、今までいろんなことがあって、積み重なって今の翔太くんになったんだね?

私は昔の翔太くんを知らない。昔どんな辛い思いをしたのか完全に理解することはできない。でも、昔の翔太くんがいたから今の翔太くんになったんだよね?

私は今の翔太くんが大好き。それは昔の翔太くんのおかげだから、昔の翔太くんも大好き。
私はどの翔太くんも全部大好き。

「まあ、コイツはホントにいい奴だから、よろしくお願いしますよ」

松永本部長がちょっと座り直して真面目にそんなことを言ったから、驚いたけれど私は大きくうなずいた。

私、翔太くんのことを大事にします。
こんな風に翔太くんのことを知っていて、思い遣ってくれる上司がいて本当に良かった。

翔太くんを見たら、翔太くんが微笑んでうなずいたから、私も微笑んだ。ただそれだけで、周りの音が一瞬消えて、互いの想いを伝え合えたような気持ちになる。

その後やっとお寿司が来て、みんなでワイワイ食べた後、本部長が「邪魔するのは無粋」と言って、あっという間にみんなで片づけをしてゴミをまとめるとガヤガヤと帰って行った。

なんか、嵐のようだったなあ。

翔太くんは私を見つめて苦笑いをした。

「本部長はね、あんな感じだけど、本当に面倒見のいい人なんだ。俺もずいぶんお世話になったんだよ」

「うん、そんな感じだね」

私の知らない昔の翔太くんの話なんて聞けて、すごく嬉しかった。
もっといろいろ聞きたかったなあ。
< 324 / 337 >

この作品をシェア

pagetop