残業しないで帰りなさい!
「あの人のせいで営業がやたら体育会系のノリになってて困ってるんだけどね」
あのノリは本部長のせいなんだ?
「やっぱりあのノリはやりにくい?」
「うん。香奈ちゃんもそう思った?」
「うん、ちょっと思った」
「だよねえ?俺たち吹奏楽部だもんね?ノリが違うよね」
「ねっ」
翔太くんがフッと笑ったから、私もふふっと笑った。
「香奈ちゃん」
「?」
「ずっと一緒にいてね」
急にどうしたの?
優しい瞳をじっと見上げる。
ずっと翔太くんと一緒にいるよ?
「ずっと一緒にいる。ずっと一緒にいて、翔太くんのことを大事にする。今までの翔太くんも、今の翔太くんも、これからの翔太くんも、全部全部大事にする」
翔太くんは少し目を大きくして首を傾げた。
「昔の話なんて聞いたから?」
「……うん。私は昔の翔太くんを見たことはないけど、昔の翔太くんのおかげで今の翔太くんになったんだし、今の翔太くんが大好きだから昔の翔太くんも大好き。私は翔太くんのことがまるっとぜーんぶ大好き」
翔太くんはせつない瞳をして私を抱き締めるとため息をついた。
「俺も香奈ちゃんが大好きだよ。君のいない人生なんて考えらんない。君を大事にすることは自分を大事にすることみたいに思えるんだ。今までそんなこと考えたこともなかったけど、君のために君のことはもちろん、自分自身も大事にしたいと思えるようになったんだ」
昔の翔太くんは刹那的で、あまり自分を大事にしてこなかったのかもしれない。でも、今私と一緒にいて翔太くんが自分を大事だって思えるなら、私は本当に心から嬉しい。
私が腕の中から見上げると、翔太くんは少し微笑んだ。
「あのさ、明日仕事が終わったら連れて行きたい所があるんだ。だから、待っててもらってもいい?」
「ん?うん」
行きたい所ってなんだろう?
私が首を傾げると翔太くんはニコッと笑った。
「どこに行くかは明日のお楽しみ」
なんかそれって、最初のデートの時みたい。
ちょっと、ドキドキしちゃうなあ。