残業しないで帰りなさい!
ずっと静かだったから、驚いてビクッと背筋を伸ばした。
「は、はいっ!」
「……失礼」
ゆっくりと扉を開けて部屋を覗き込むように入って来たのは藤崎課長だった。相変わらずやる気のなさそうな顔。
「あれっ、もうそんな時間……?」
もう見回り?
でも、大塚係長じゃなくて良かった……。
時計を見ると7時半の少し前。今日は来るのが早いな……。さっさと帰りなさいって言われちゃうかな?
サンプル組むのはあと少しで終わるのに、まだ資料と組み合わせる作業が全然終わってない。どうしよう……。
「一人でやってんの?終わりそう?」
「えっと、後は資料とサンプルを組み合わせて終わりなんですけど……」
「何セット作んの?」
「300です」
「300!?」
藤崎課長は眠そうな顔をしていたのに、急に目を大きくして驚いた顔をした。
「それ、今日中にやんないといけないの?」
「……はい、明日の朝イチで必要なので」
「ふーん……」
藤崎課長は手を口元にあてて、考えているようだった。
「じゃあさ、見回り終わったら手伝うよ」
「え?」
「だって一人じゃ時間かかるでしょ?それ」
「あ、えっと、はい。でも……」
「じゃあ、後でね」
藤崎課長はニコッとすごく優しい笑顔をして去って行った。