残業しないで帰りなさい!

「あの、……いいんですか?手伝っていただいたりして」

今さらだけど聞いてみた。だって、こんなことしてたら藤崎課長だって帰りが遅くなってしまうでしょう?

「この間も言ったけど、君が帰ってくんないと俺も帰れないんだよね」

「あ……」

そう言えばそんなこと言ってたかも。本当にそうなんだ……。藤崎課長、いつも残業してる社員の仕事を手伝ったりしてるのかな。

「すみません」

「日中は作業できなかったの?」

手際よく資料とサンプルを組み合わせながら藤崎課長が聞いてきた。こうして残業するはめになったのは、夕方頼まれたからなんだけど、なんか言いづらいな。

「すみません……」

なんか、すみませんばっかり言ってる。

「いや、こんな遅くまでやるなんて大変だからさ、どうしてかなあと思って」

「……えっと、夕方になって依頼されたものですから」

なんか、峰岸さんのせいみたいに言ってしまって、ちょっと罪悪感を持っちゃうな。

「なるほどね。営業が言うの忘れてたんだ」

「え?」

「俺も営業だった頃さ、忙しくてお願いすんの忘れてたことがあったなって思い出したから。あの頃はブーブー文句言われて遅くまで一緒に作業したもんだけどね。君に頼んだそいつは一緒にやってくんなかったんだ?」

「外に行くご用があるっておっしゃっていたので」

「ふーん、そっか」

藤崎課長って昔営業だったんだ。その頃のあだ名が『カミソリ王子』だったのかな、なんて変なことを思い出してしまった。

「残業減らそうとしてるのに、本当にすみません」

「別に君が悪いわけじゃないよ」

その言葉は、なぜだか心に響いて少し涙がにじんだ。

私、悪くない……?

「君が悪いわけじゃない」って言ってもらえたことが、なんかすごく嬉しかった。
< 36 / 337 >

この作品をシェア

pagetop