残業しないで帰りなさい!
「お酒飲める?あー、でも明日も仕事だしな。普通にごはんの方がいいかっ」
楽しそうに喋る藤崎課長に「どちらでも」と答えることしかできなかったけれど、嬉しそうな横顔を見たら、勇気を出して食事に行くことにして良かったのかもしれないと思った。
「夢も希望もないけど、ファミレスでいい?」
ファミレスは夢も希望もないんだろうか?そんなことはないと思うけど。
「全然かまいません」
「そお?良かった」
藤崎課長は振り返るとにこっと笑った。いい大人がはしゃいでいるように見えて、ちょっと笑えた。
駅前のファミレスに入ると、すぐに可愛らしい店員さんがパタパタとやって来た。
「禁煙席のご案内になりますが、よろしいですか?」
「うん」
思いのほか店内は混んでいたけれど、店員さんは私たちを窓際の席に案内してくれた。
窓際の席ってなんとなく嬉しい。なんとなく、外が見えるし。
「やった」
藤崎課長が嬉しそうに小さく呟いた。
「え?」
「窓際の席だったから、なんか嬉しくってさ」
同じことを考えていたから、思わずフフッと笑ってしまった。
「私も窓際で良かったって思いました」
「窓際の席ってなんで嬉しいんだろうねえ」
藤崎課長は楽しそうにメニューを手に取って、一冊を私に渡してくれた。