残業しないで帰りなさい!

「別にうちの会社はブラック企業じゃないと思いますけど」

「そうなんだけどさ、上の人たちは昔の明らかにブラックだった時代を知ってるからねえ。後ろめたいっていうか、ビビってんだよ」

「へえ」

そういえばさっき、昔は点滴打ってまで仕事してたって言ってたもんね?

「それに労基署の査察ってさ、内部告発で入ることが多いんだ。つまり、自分の労働環境が不満でリークするってことだね」

「そんなことする人、いるんですか?」

そんなのちょっと信じられないなあ。自分の会社のことを悪く言うってことでしょう?

「まあ、強い不満があればリークする人はいると思うよ。だから、なるべく残業になんないように、有給休暇が取れるように改善しようとしてるわけ。例え査察が入ったとしても、うちはちゃんとやってますよーって言えるようにね。残業削減してどのくらい人件費を押さえられるかってことより、今は企業イメージを優先してるかもね」

「なるほど」

なんか、自分が勤めてる会社のことなのに全然知らなかったなあ。

「だから仕事の効率化を目指して、まずは惰性でやってるような余計な残業はやめようって方針なんだ。俺らはそういうのをやめさせるために見回りをしてるんだよ」

「そうでしたか……」

だからって見回りをして早く帰らせるなんて、人事課の人は大変だな。

「課長はいつも今日みたいに残業してる人のお手伝いをしてるんですか?」

「ええ?そんなわけないよ!」

藤崎課長は困ったように笑った。

あれ?

「そうなんですか?」

「うん。そんなことしてたら俺、体が持たないよ」

「はあ」

まあ、それはそうかもしれないけど。

「君は特別だよ。可愛いから、特別」

「!」

ビシッと固まってしまった。
……可愛いから特別って、何?

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