残業しないで帰りなさい!

藤崎課長は窓の外を見て、ふてくされた顔をした。

「『王子』なんて、なんか『観賞用の男』みたいじゃない?紳士だって勘違いされるしさ」

『観賞用』ってことは、つまり自分がイケメンであることは自覚してるんだ?そして、中身は紳士じゃなくてちゃんとしていない、ということ?
……セクハラ発言を除けば、基本的にいい人だと思うけど。

「セクハラ発言を除けば、課長は紳士だと思いますよ」

「君の前では格好つけてるもん」

「……」

格好つけてる?この人、なにカミングアウトしてるんだろう。
だいたい、そんなやる気のなさそうな態度で、格好つけてるって言えるんですか?

「『王子』って、優しくて賢くて爽やかで何でもできるみたいだけど、俺、そんなんじゃないんだよね。千手観音じゃないんだからさ」

それって王子様の重圧?それにしても、千手観音って例えはちょっとオジサンぽいなあ。全然爽やかじゃない。

「だから俺のこと『王子』なんて呼ばないで」

そんなこと言われても、困る。

「……私は課長のこと『王子』なんて呼んでませんけど」

心の中では何度も『王子様だなあ』って思ったけど。臆病な私には、それを言葉にする勇気はありません。

「あれ?さっきそう言ってなかった?」

「『そういうあだ名だそうですね?』とは言いましたけど……」

「……」

藤崎課長は頬杖をついた手を口元にずらして黙り込んでしまった。

「?」

今度はどうしたのかな?

「そう?そうだっけ?そうだったかな。……そうだったかもねえ。それって、なんか俺、自滅だなあ」

「自滅?」

「なんか俺、すっげー恥ずかしいヤツみたい」

「……えっと?」

つまり?
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