残業しないで帰りなさい!

藤崎課長は楽しそうに身を乗り出した。

「でしょ?練習場所もすぐ女子に横取りされるしさ。あー、なんかいろいろ思い出してきた」

ああ……、そうだった。
私のいた吹奏楽部も、女子の人数が圧倒的に多くて強いから、男子部員はいつも肩身が狭そうだった。

私たち、男子の存在なんか全然気にしないで大声でありとあらゆることを喋っちゃってたし。
男子はいつも自由練習になると、隅っこへ追いやられていた。それなのに、重たい物を運ぶ時だけ重宝される。

藤崎課長もそんな感じだった?そう思ったら、ちょっとおかしくて笑ってしまった。

「藤崎課長も隅に追いやられてたんですか?」

「うん、追い出されんのがわかってたから、最初から男だけでよく屋上に行ってたよ。でも、屋上で練習すんのはけっこう好きだったなあ。開放感があって、夕日なんて見ながら練習しちゃったりしてさ」

にっこり笑った藤崎課長を見て、ふと、校舎の屋上で風に吹かれながらトロンボーンを吹く、高校生の藤崎課長の姿が思い浮かんだ。

グラウンドから聞こえる野球部の金属バットの音、体育館から聞こえるボールを弾ませる音、髪に夕日が透ける高校生の藤崎課長の後ろ姿。まるで見たことがある景色のように、ありありと想像してしまった。
なんだろう。ちょっとドキドキするなあ……。

高校生の藤崎課長、どんな感じだったのかな。吹奏楽部にありがちな、おとなしめで真面目な感じかな。本人は気が付いていなくても、裏では相当人気があったんだろうな。
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