残業しないで帰りなさい!

「えっ?」

なに……それ。

せつない瞳がじっと私を見ている。なんだろう、ドキドキするのに目をそらせない。

じっと視線が絡み合ったまま、沈黙した。

なにこれ?
何かが胸に刺さって痛い。

私が息を潜めて金縛りにあったように動けずにいると、藤崎課長はフッと微笑んだ。

「君と一緒にいて、すごく楽しかったんだ……。君は俺のくだらない昔話に興味を持ってくれて、話してみたらたくさん共通点があって、心の底から楽しくて何かを感じていたのに。それなのに俺ときたら、結局君を怖がらせただけだったなって。そんなこと、考えてた」

藤崎課長は自嘲するように弱々しく小さなため息をついた。

そんなに落ち込んだ顔されても困る……。
あれは、私が変に怖がったりしたからいけなかったんだ。

「すみません、私がいけなかったんです」

「なんで?違うよ、俺が悪かったの。君はなんにも悪くないよ」

藤崎課長は少し寂しそうな、優しい顔をした。

「入社した頃、君が困った感じで制服を気にしていたのは、もしかしたら女の子っぽい制服を着たくなかったからなのかな?」

入社した頃?なにそれ?

「……なんで、そんなこと知ってるんですか?」

「見てたからね。入社してきた時から君のことがずっと気になってたんだ」

そう言うと藤崎課長は立ち上がって、スーツの埃をパンパンッと払った。

気になってたって、何?

なんだろう。
さっきから頭がボーっとして働かない。ずっとドキドキして、鼓動がやけに耳に響く。
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