残業しないで帰りなさい!

「香奈、男に女の子として見られるのはやっぱり怖いの?」

「うん」

「それはあの事件のせいだよね?」

「……うん」

思い出したくない……、忌まわしい遠い記憶。

「自分が女の子らしくすることに罪悪感を持っちゃう?」

「うん」

「それもあの事件のせいだよね?」

「そ、だね」

瑞穂は両手を机に置いて身を乗り出した。

「ねえ香奈……、あの事件は全て犯人が悪いんだし、世の中の男が全員あんな男ってわけじゃないよ?それに、香奈だけじゃなくて、他に何人もの子が被害に遭ったじゃん。香奈が事件に遭ったのは、あの頃の香奈が女の子らしくしてたことが原因じゃない。無神経な継母の言ったことなんて、全然気にすることないんだよ?」

「ん……わかってる」

「わかってないよ!」

「んー……、そだね、わかってない」

瑞穂の言う通り、わかってるけど、わかってない。頭ではわかってるけど、恐怖心とか自分の不甲斐なさみたいなものがごちゃごちゃに混ざり合って、つい昨日のことみたいに首筋に張り付いて離れない。

「私はさ、怖がりの香奈が恋をしたってだけでもすっごく嬉しいんだ。でも、香奈にはもっと幸せになってほしい。せめて恋をした人の前では怖がらないで女の子でいてほしいんだよ」

持つべきものは友だなあ。
そんな風に思ってくれるなんて。
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