○○するお話【中編つめあわせ】



笑顔どころか、しかめっつらさえしなかった麗が初めて俺に見せた表情は、眉をしかめる、というモノだった。

麗の屋敷に通い始めて一ヶ月。
いつものように窓から入り込み、いつもの順路で部屋まで行き、いつも通りノックをコココンと軽快にしドアを開け「おー、麗ちゃん」と声をかけた俺に向けられたのが、それだ。

どこで覚えたのか知らないが、相当怪訝そうな表情を向けられてビビると同時に嬉しさがこみ上げてきたのは秘密だ。
麗に言ってもアキラに言っても、〝変態〟とか〝きもい〟という単語の入った言葉が返されるのは分かり切っていたから。

でも、俺に遠慮してか自らの立場に遠慮してか、俺に対して感情のかけらを見せるどころか、言葉さえもかけてこなかった頃を思えば、どんな嫌な顔だろうと喜んでいい風に思えた。
麗が初めて俺に見せた〝気持ち〟なんだから。

後ろ手にドアを閉め「麗ちゃん、せっかく美人なのにそんな顔したら台無しでしょ」と笑うと。
麗は俺を尚も睨むように見てからため息を落とした。

もう何度となくつかれているため息に温度を感じるのは、俺が期待しすぎているからだろうか。
しかめっ面見られただけでも十分なハズなのに、もっとと新たな変化を探してしまう自分にどんだけ貪欲だよと苦笑いが漏れる。

ずっと、自分は割とあっさりした性格だと思ってきたのにここにきてその認識は少しずつ変化を見せているのも、秘密だった。

「私なんかのところに毎日毎日来てよく飽きませんね」
「一日に一度は麗の憎まれ口聞かないとダメな身体になっちゃって」
「きも」
「麗ちゃん、罵倒してもいいからもうちょっと文字数増やして。二文字で否定されんのはツラい」
「きもい」


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