○○するお話【中編つめあわせ】


夜、麗の部屋に忍び込んで寝顔を眺めるようになったのは、一ヶ月近く前からだ。
最初はただ、夜あまり眠れないだとか夢見が悪いというような事を言っていたから、心配で覗きに行っただけだった。
それがだんだんと、寝顔可愛いかったなぁ、今日も見に行こうかなーどうせ暇だし、大体吸血鬼ってそんなに睡眠時間必要としないしな、どうせ暇なら有意義に過ごした方が俺のためだし、と色んな理由をつけて毎晩のように麗の部屋に通うようになった。

眠っている麗はひたすらに綺麗で、綺麗なんて言葉も足りないくらいだった。
色の明るい、最近少しだけど表情を表すようになった瞳を覆う瞼。長い睫。
白くなめらかな頬に、薄いピンク色をした小さな唇。

そんな麗を見ているうちに……自分の中の吸血鬼の血が騒ぎ出しドクンと内側から俺を急かすようになったのももう随分前から。

麗の血に焦がれている。
それを自らの本能に知った時、俺の前ですやすやと眠る麗が急に冷たく見え、慌ててその手を取ったのは……恐らく、予知的な何かだったんだろう。
温かい手に命を感じ、撫で下ろした胸はまだバクバクとうるさく鳴っていた。

俺が麗の首筋に牙を立てたらどうなるのか。今の俺には多分もう、自制なんてものは効かないし、血を吸い尽くしてしまう可能性だってある。
人間の血なんてたかが知れてる。
こんな華奢な麗の血なんて……俺にとっちゃ、たいした量じゃない。

そんな、俺にとってはたいした量じゃない程度の少ない血で麗は生きていて、そして俺は簡単に麗の命を奪えてしまう。

それは、麗に限らずすべての人間に対して言える事なのに……当たり前の事なのに。
そんな事実が急に怖くなって、それから眠れなくなった。
だから、麗の部屋に毎晩忍び込んで麗が起きる直前に帰るようになった。


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