○○するお話【中編つめあわせ】
「んー。最近あんまり」
穏やかな風が麗の髪を掬うと、甘い香りが広がる。
薔薇なんかよりもよっぽど魅惑的なその香りに沸き立ちそうになる本能を、目を閉じ抑えつける。
長年生きてきてよかった。吸血本能の抑え方を分かっていてよかった。
「カイジさんにも、なにか心配事でもあるんですか?」
「そりゃあね。吸血鬼にだって感情はありますから」
「私……正直、吸血鬼ってもっと高貴で近づきにくい存在かと思っていました」
急にそんな話を始めた麗に、目を少し開けその姿を眺める。
「俺、高貴じゃん」
「だから、屋敷に忍び込んできたカイジさんの姿を見て、あの時少し拍子抜けしました。
マントとかうわー……って思って」
「え、待って。あの時、拍子抜けしてたの? 全然そんな風に見えなかったけど」
「あのマントって、カッコいいと思ってつけ……」
「麗ちゃん。マントの話はもうやめよう。ツラい」
笑いながら言った俺を、麗は「そうですか?」と本当に悪気がなかったのか、不思議そうに言いまた頭を撫でる。
そして聞いた。
「じゃあ、何の話がいいですか?」
「え?」
「カイジさんが落ち着いて眠れるような話をしようかと思って。カイジさん、いつもたくさん話を聞かせてくれるから。
もっとも、私なんかの話じゃカイジさんは楽しくないかもしれないけど」
わずかにしかめられた眉をじっと見上げ、「まさか」と笑みを浮かべる。