○○するお話【中編つめあわせ】
今までは平気だった距離感がツラい。甘い香りにむくりと起き上がりそうな本能を感じ、数歩後ずさった。
鼓動が速く、一度打つごとに心臓から痛みを走らせ全身に回す。
じりじりと焼けるような痛みが、もう心臓だけじゃなく、身体中に転移していた。
……もう、限界なのか?
割れるように痛みだした頭に、くそっと口の中で吐き出して麗から顔を背ける。
今日明日にはもうダメかもしれないとは思っていた。
だから、せめて今日だけは麗と一緒になんでもない話をして、それで最後に麗が笑ってくれたりしたらもう、思い残すことなんかねぇなって、そう思っていたのに――。
「ごめん、麗ちゃん……やっぱ、今日もダメかも」
指先が痺れ、感覚が失われていく。
血を欲しがる本能と、麗を守ろうとする本能が交錯し、痛みや苦しみとなり襲い掛かる。
このままここにいたら、ダメだ。
もうほとんどまともには動いていない頭でそう思い、ドアに向かいフラフラと歩き出す。
「麗ちゃん、ごめん……俺、帰るわ」
吸い込む空気さえ喉を刺すようで、視界のかすみがひどくなる。
びりびりと痺れの煩い足を引きずるように動かしドアまでいき、ドアノブに手を掛けようとした時だった。
背中に、ドン……という軽い衝撃が走り、ふわりと甘い香りが広がったのは。