○○するお話【中編つめあわせ】


けれど、カイジさんと出逢ってからの十日間で、私の世界はわずかだけど変わり始めていて……。
今、もしも命を落としたら、カイジさんが持ってきてくれるケーキが食べられなかっただとか、結局最後までおいしくコーヒーを入れてあげられなかったとか……考えてみれば、一度もきちんと〝ありがとう〟を言えていないだとか。
思い残す事が次々に出てくるから……それを、困ればいいのか、それとも別の感情を抱けばいいのかが分からなくて少し戸惑っていた。

戸惑う、という感情だって、それまでは感じた事がなかったのに。
戸惑う事に戸惑ってしまうのだから収集がつかない。つまりは困る。困るのだけど……嬉しい、のか?
カイジさんが来るようになってからというもの、今まで感じた事のないふわふわとした温かい感情が胸の奥にぽふんと生まれるから、それがむず痒い。

まるでカイジさんが用意してくれたベッドみたいにふわふわしたぽふんぽふんしたモノは、それ以降私の胸の奥にずっと居座っていて……でも、不思議と心地悪くは感じなかった。

何年も一緒に過ごしてきたあの大人よりも、カイジさんと一緒にいる方が落ち着くようになったのは、それから間もなくしてだった。

カイジさんがくれるものは、言葉でも表情でもモノでもなんでも、全部温かかったから。
私は、それが〝嬉し〟かったから。

だから、与えられるばかりじゃなく、私だって……そう思って精一杯伸ばした手を振り払われた感覚が、三日経った今でもまだ消えずに残っていた。

あれからカイジさんは姿を見せない。
目が覚めて一番に窓を確認するけれど、紙は落ちていない。


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