○○するお話【中編つめあわせ】


そういう、理解できないモノはまとめて〝恋〟と呼ぶのだと知ったのは……カイジさんが姿を消す少し前だった。
そして私がそれを自覚したのは、カイジさんがいなくなった後だったのだから……不毛もいいところだなと思った。

しばらくぼーっとしていたけれど、あまり時間がかかっても使用人さんが心配するなと立ち上がる。

大丈夫。私は幸せだ。
心配してくれる人が待っていてくれるのだから、私は幸せだ。
幸せ……だけど……。
圧倒的に足りないモノが、絶対的に、必要なモノがあって……。

幸せだけど。カイジさんがたくさんのモノを残して行ってくれたんだから、幸せだけど……。

『麗ちゃん』
そう呼ぶ声がないと、多分私は――。

「――麗ちゃん」

ぐっと奥歯を噛みしめて俯いた時だった。そんな声が聞こえたのは。
……いや、正しくは、聞こえた気がしたのは、という方が正しいんだろうと、空耳まで聞こえるようになった自分に重症だなと思っていると。

「麗ちゃん」

もう一度聞こえて……ゆっくりと視線をあげた。
目の前に立つのは、あの日、窓から忍び込んできたままのカイジさんで……ただ、マントがなくて、黒い瞳が底光りしていない。

幻覚……だろうか。幻聴の症状もある。カイジさんを想うあまり、幻を見るようにまでなってしまったのだろうか。
そんな風に思いながら、幻のカイジさんを見ていると、「驚きすぎ」と、ふはっと笑われた。

カイジさんが、笑った……。


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